近年、電気料金の高騰や脱炭素社会への関心が高まる中、家庭用の給湯器として注目を集めているのが「エコキュート」です。省エネで環境に優しいという触れ込みで普及が進んでいますが、実際のところ本当に「お得」なのでしょうか?
この記事では、エコキュートの特徴やメリット・デメリットを解説しつつ、従来のガス給湯器との電気代比較シミュレーションを交えて、その実態を探ります。
「エコキュート」とは?
エコキュートとは、空気中の熱を利用してお湯を沸かす「ヒートポンプ技術」を用いた電気給湯器です。夜間の安い電気を使ってタンクにお湯を貯め、必要なときにそのお湯を使うことで、電気代を抑える設計になっています。
この仕組みのおかげで、従来の電気温水器やガス給湯器よりも高いエネルギー効率を実現しています。経済産業省も導入を推奨しており、家庭のCO₂排出量削減にもつながるとされています。
エコキュートのメリット
エコキュートには主に以下3つのメリットがあります。
- 電気代が安くなる可能性がある
- 環境にやさしい
- 災害時の備えになる
順番に解説します。
1. 電気代が安くなる可能性がある
最大のメリットは、ランニングコストの安さです。特に「深夜電力」を活用するプラン(例:東京電力のスマートライフプランなど)を選べば、日中よりも3分の1程度の単価で電気を使用できます。
電気代が高騰する中、夜間料金でお湯を沸かせるのは大きな節約ポイントです。
2. 環境にやさしい
エコキュートは電気を熱に変えるのではなく、空気中の熱を移動させる「ヒートポンプ方式」のため、消費電力あたりの熱効率が非常に高い(COP3.0~4.0程度)です。結果として、CO₂排出量の削減にもつながります。
3. 災害時の備えになる
貯湯タンクにお湯を常にストックしておくため、災害時に断水しても生活用水(約300L〜370L)が確保できます。特に地震の多い日本では、安心材料の一つとして評価されています。
給湯器とエコキュートの違いは以下の記事でも紹介していますのでご参照ください。
エコキュートのデメリット
一方、エコキュートには主に以下のような3つのデメリットもあります。
- 初期費用が高い
- 設置スペースが必要
- お湯切れのリスク
順番に解説します。
1. 初期費用が高い
本体価格+設置工事費を含めると、40万〜60万円程度の初期費用がかかるのが一般的です。これはガス給湯器(15万〜25万円)と比べて約2倍以上のコストです。
長期的に見れば元が取れるケースもありますが、初期投資は無視できません。
2. 設置スペースが必要
貯湯タンクはかなり大型(高さ約2m、直径60cm前後)で、屋外設置が前提となります。設置場所の確保が難しい住宅では導入自体が不可能なこともあります。
3. お湯切れのリスク
タンクに貯めた分しか使えないため、家族が多い家庭や冬場の長時間使用時にはお湯切れの可能性があります。
最近の機種は学習機能付きでお湯の使用量を予測して沸き増ししてくれますが、完全に解消されるわけではありません。
エコキュートのデメリットが気になる方は、こちらの記事もご参照ください。
エコキュートの電気代の目安は?
エコキュートは昼間よりも安い夜間の電力を使用してお湯を作ります。そのため、ガスでお湯を沸かす通常の給湯器よりもランニングコストを抑えられるという特徴があります。
実際の電気代の目安は、以下の通りです。
<エコキュートの電気代(目安)>
月ごと | 年間 |
1,500~5,000円前後 | 20,000円~60,000円前後 |
月ごと、年間で電気代の差があるのはエリアや季節などによって使用する電力の量が異なるためです。
エコキュートの電気代はエリアや条件によって異なる
エコキュートは「空気中の熱を利用してお湯を沸かす」という仕組みになっています。
暖かい地域であれば使用電力は少量で済みますが、寒い地域の場合はもっとたくさんの電気を使わなければお湯を作れません。そのため、寒い地方ほど使用電力も必然的に高くなる傾向が見られます。
また、沖縄は電力会社が電気を提供するためのコストを下げにくいため、もともとの電気代自体が高く、関西や九州よりも高い傾向にあります。
このように、エリアの特性は電気代に大きな影響を与えるということを知っておきましょう。
電気代シミュレーション:ガス給湯器とどちらが安い?
では実際に、エコキュートを導入することで一般的にどの程度電気代が変わるのか、ガス給湯器との比較シミュレーションを見てみます。
■条件設定
- 家族構成:4人家族(大人2人、子ども2人)
- 月間給湯使用量:12㎥(都市ガス)または360kWh(エコキュート)
- 都市ガス単価:160円/㎥
- 深夜電力単価:15円/kWh
- エコキュートCOP(効率):3.2
- 稼働日数:30日/月
■ガス給湯器の月間費用
12㎥ × 160円 = 1,920円
(実際は基本料金がかかるため2,500〜3,000円が相場)
■エコキュートの月間費用
消費電力:360kWh ÷ 3.2 ≒ 112.5kWh
112.5kWh × 15円 ≒ 1,688円
実際にはタンクの保温電力やポンプの稼働も含めて月1,800〜2,200円程度。
■結果
月間ではエコキュートの方が約500〜800円安く、年間で6,000〜10,000円ほどの節約につながると試算されます。
ただし、初期費用の差額(約30万円)を回収するには、およそ20〜30年かかる場合もあるため、慎重な検討が必要です。
補助金制度の活用もポイント
2025年現在、多くの自治体や国の補助制度(例:住宅省エネ2024キャンペーン)により、エコキュートの導入に対して数万円〜最大15万円ほどの補助が受けられる場合があります。これを活用すれば、初期費用の回収期間を大幅に短縮できる可能性があります。
導入前には、自治体のホームページや経済産業省の補助金情報を必ず確認しておきましょう。
まとめ:エコキュートは「人によってはお得」
エコキュートは、環境性能やランニングコストの面では非常に優れた設備です。しかし、初期投資の大きさや住宅環境による制約もあるため、万人にとって「無条件にお得」とは言えません。
特に以下のような人にはおすすめです。
- 電力会社の夜間割引プランを活用できる
- 長く同じ家に住む予定がある
- 家族構成が安定しており、給湯使用量が予測しやすい
- 補助金を活用できる
一方で、単身世帯や設置スペースが限られている家庭では、ガス給湯器の方が合理的なケースも多々あります。結論として、「エコキュート=絶対に得」ではなく、「ライフスタイルに合えばお得」なのです。
導入を検討している方は、電気料金プランや補助金、設置スペースの有無を含めて、冷静なシミュレーションを行いましょう。